足立健

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あれがいまでも

 誰もが寝静まった夜に街頭の電源を一つずつ切っていくと俺だけが光源のようで最高の気分だった。だってまるで立たされていた俺はたくさんの怒りを背負ってこう立っているだけのように見えたから。

 深く呑み込んでいくは夜のひかり。ひかりは黒く何も映しはしないが俺はたしかに迫ってくる墓標の群れを感じていた。その横でだんだんと悼む弱者たちの群れに俺も加わらなければならないのか。

 周りを見渡せば何もないがもっと身体が弱くなって、それでどうした?薬はもう効かなかったから俺は絆創膏を外して走り出した。流れていく街が綺麗だ。真っ黒なひかりがどこまでも後ろに流れていってまるで不可視の星の間をくぐり抜けている気分だった。

 なぜ夜空に普段は輝いているはずの星が見えないのか、それは俺には分からない。だって星がなくたって、俺が唯一の星になればいいんだから。「そうでしょうお母さん」そうして俺は奥の方まで駆け抜けていくのだ。どんどんトップスピードで加速していくんだ!土ぼこりが巻き上がってとうとう何も見えなくなってしまった。

 着いたのは黒くて大きな怪物が砂一面を使って脈打つ浜辺だった。呑み込まれていくは俺なのか、それとも俺そのものなのか?怪物に呑み込まれると、あなたが溶け込んだはずの酸性の体液に身体を苛まれる。思わず俺は絶叫してしまった。「ここにお母さんがいるはずなんだ」狂ったようにもがきながら俺はあなたを捜す。すると奥にタッチした手が動き出してまた、いたんだ。

 怪物はいま倒れる寸前で、痛みはだからこそどんどん増していった。引き寄せて、もっと大きな声でガンと叫ぶと、怪物の身体はぱっくりと割れ、そこから水が入ってきた。あ…としか声を出せなかったけれど、それは何よりも救われていて、何よりも良かった。

 あなたがいまでも、微笑んでくれて本当によかった。僕は目が見えなくなるまで抱きしめていた。