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【短編】釈迦、資本主義、そしてエロゲ

 ある日とうとう、自分の苦悩は、いい学校に入りたいとか、いい女を抱きたいとか、高い年収が欲しいとかの外部的な欲望に起因しており、そしてそれはとても平凡な苦悩であることに気がついた。

 


 そしてそれは資本主義に駆動されていることにも気がついた私は、資本主義を打ち倒すことを決意した。

 


 まず私はスティーブ・ジョブズと会った。

 


 彼の顔貌はインドの聖人にように痩せこけていてそのくせ眼の奥だけが爛々と煌めいていたが、イッセイ・ミヤケのタートルネックを着ながらボブ・ディランを聴く姿はまさに資本主義の王といった風合いであり、実際に資本主義の王だった。

 


 スティーブ・ジョブズは私にこう言った。

 


「今すぐ、私の右手元のiPhoneか、私の左手元のLSDかどちらか選べ!」

 


私は少し迷ったが……

 

 

 

iPhoneを選択した。暫くはインターネット・ポルノで抜き、Twitterを使い続けたが、そのうち寿命が尽き孤独死した。

 


……ダメダメ、これじゃいけない。気を取り直して……

 


LSDを選択。極彩色の彩りが世界中を駆け巡り、私はそのうちベッドに入ってきたスティーブ・ジョブズと一つになった。スティーブ・ジョブズは私に優しく手ほどきしてくれて世界の真理を一緒に見ることができた。

 


 そのうち数年してこれじゃいけないと気づいた私はスティーブのもとから逃げ出した。私と別れたスティーブはアップル・コンピュータを創業し、大金持ちとなった。

 


 次に私は、日蓮聖人と会った。

 


 彼は常に何かに怒っていて、今怒っていることといえば2025年に中華人民共和国が日本に攻め込んでくることだった。

 


「愚かな唐人は今に我が国を打ち倒し仏法に背かん気でいる!法華経だけがお前を救ってくれるだろう。」

 

 

 

そこで私は法華経がどんなものか興味を持った。そ……

 


③れでも入信するほどではなかったので彼のもとを立ち去った。そのうちに世界では第三次世界大戦が起こり、日本は更地となった。

 


……いや、こんなはずじゃなかった。正解ルートはこっちなのか……

 


④そこで私は法華経に帰依した。日蓮と、私と、あとは付人ヤ◯ガミ烈士で布教活動に勤しんでいたが、ある日当局に目をつけられ死刑を告げられてしまう。しかし処刑ボタンが押されるちょうどその段階で電気系統の故障による火災が発生、辛くも脱獄に成功したのだった。

 


 そのあと私たちは頑張って世界を守り抜いたが、そのうちこれが本当に正しいことなのかわからなくなった。私は日蓮の元から離れた。彼は「戻ってこい背教者!死ねェ!」と叫んでいたが私は意にも介さなかった。

 


 その次に私はカール・マルクスと会った。彼は薄汚い口髭を蓄え牧場の牛のような臭いを放っていたが、それがいかにもインドの聖人みたいで、スティーブにはないリアルを感じた。

 


「この世界はキミの言うとおり、資本主義が生み出した外部的な欲望に駆動されており、そしてそれは全ての人を苦しめている。我々は新しい段階に達さないといけないんだ!」

 


 マルクスはいかにも気難しそうな爺さんだったがその口調はいかにも好々爺じみていて、好感を抱かせるには十分だった。そこで……

 


⑤私はマルクスと一緒に革命の準備を始めた。しかしこの爺さんは火炎瓶のつくり方一つ知らないずぶの夢想家だったのだ!結局当局に拘束された私たちは拷問を受け全員死んだ。

 


……まさかこっちが間違いだとは。じゃあ正解は……?

 


マルクス爺さんの申し出を断り私はit(イット)会社を作った。it(イット)会社はみるみるうちに拡大した。私の体躯もみるみるうちに肥え太り、六本木の豚という別称がつくまでになってしまったが、心は満たされなかった。

 


……これも違う?じゃあもしかして……

 


⑦私はマルクスと一緒に著作の編纂作業にとりかかることとした。こういう交換がこういった疎外を生んで、世界はこうで……。私たちのコンビはピッタリ息が合っており、のちの世界を変える聖典を創ることに成功したのだった。

 


 そのうちマルクスの爺さんは口が臭いのと口髭が臭いのとで折り合いがつかなくなり、私は逃げ出した。マルクスの爺さんはそれでも妻や子と楽しげに日々を過ごしていた。

 


 最後に私は釈迦と会った。

 


「この年にして悟りに辿り着くとは上出来。お前を二代目『釈迦』にしてやろう」

⑧「ありがたいことですが、今の私にはもうその座はいらないのです……。だって、世界は今日も回転しているし、その地位に立つことに意味はないのですから。私は私を悟っています。」

 


 「うむ。正解」

釈迦はにっこりと笑って、私を抱擁した。するとなんだか私の内側から力が湧いてきて(さりとてそれは一切の勃起をもたらさない)、私は全てのものの声が今こそ聞こえるようになった。全ての問いに対する答えが頭の中を浮かんでは消え、消えては浮かんできた。

 


 私は、二代目『釈迦』となった。