足立健

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お前には才能が……(2022-10-5)

賢しらな連中が賢しらに降りるさまを見てそれでもお前は立ち続けているが、俺は偉いから生活に戻ることができるのだ。
お前には才能がないから降りることすら出来ない。岩に齧り付くようにリングに立つことしかできない。ボコボコにされて、観客の罵声を浴び、お前は傷つき続ける。
俺はお前を見下ろす。なんて無様でかわいそうなことだろうか。何度立ち上がっても結果は見えているだろう。お前のスイングはジャブですらない。掠りすらしていない。
自分の顔を見てみろよ!今すぐ鏡を投げ入れて、青痣で膨れ上がった赤ら顔を見せてやりたいくらいだ。お前には才能がないのだ。

少しづつ攻撃が掠るようになっていった。それでもお前はのろのろとしている。限界を振りしぼるお前はああなんと見ていて痛々しいことか。今すぐタオルを投げ入れてやりたい。はやく醜く負けて見せろよ。
お前には才能がない。それでもお前は戦い続ける。お前には才能がない。それでもお前は立ち続ける。お前には才能がない。それでもお前は腕を振り続ける。
俺は才能があるから降りた。少なくともお前より才能があって、この先に道なんてないって分かってるから降りた。お前は降りない。こんなの不幸への道でしかないのに、そんなことすら分からないからだ。俺が続けていればお前よりすごかったんだ。俺は才能がある。俺には才能が、お前にはなくて、俺には、お前には、おまえ、、お前には才能が——————

「満身創痍ながらも最後に一矢報いた敗者、〇〇に盛大な拍手を!」
リングの隅っこで横たわる敗者は言うことの聞かない腕を無理やり持ち上げ、原型を留めない顔でそれでも破顔した。

「やっぱりこいつに才能なんてなかったじゃないか。」
俺は深く安心して、ポケットからピアニッシモを取り出して、深く深く吸ってみせた。