足立健

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移動性高気圧(2020-2-12)

春、空におおいかぶさる残雪が想いのかけらを散らす。軽薄そうな男は傘もささず平気な顔で大通りを闊歩していた。群衆は奇異の目で男を打ち見て、我関せずと言わんばかりに靴を高く鳴らす。彼らにとっては靴音だけが自己主張のよるべなのか。男は気にせず、ステップを刻むような大仰さで歩を進める。いよいよ雨脚は強まって来、家路を急ぐシャワードットが波打つ。大通りのはずれで足をとめる男。雨宿りするわけでもなく立ち尽くす。しばらくそのままでいると女が現れる。女の差し出した傘に入れてもらう。二人で肩を寄せ合っている内に、雲の帳がするすると開く。奥から現れた夕日はくだらない街に光を落とす。すこし明るくなって見ると、男は美しい顔立ちをしているようだ。魔法にかけられたかのように女の頬は茜色に華やぐ。雨はいつの間にか止んでいた。